9月2日、第3回の出前講座を大崎市鳴子温泉で開催しました。地元でコーディネート役をつとめてくださったのは、「玉子屋」の宮本武さん、「山ふところの宿みやま」の板垣幸寿さん、そして観光客のためのフリースペース「ゆのまちたびの好日館」をお貸しくださった阿部眞也さんです。
コロナ禍の影響もあるのか、ひっそりとした夜の鳴子温泉。でも会場には煌煌と明かりが灯り、9時までの約2時間、18名の参加者から意見をお聞かせいただきました。議員さんも2名、ご参加くださいました。
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会の紹介のあと、まずゲストスピーカーの前宮城県美術館長の有川幾夫さんが、フェルメール展を例にとりながら、美術品を貸し出す側が事前に美術館の環境、収蔵庫をはじめとする建物の堅牢度などを視察に訪れるという話を披露。強固な地盤である現在地から活断層が近くにある場所に移転した場合、企画展の開催をめぐっての競争力が低下するかもしれないという話は説得力のあるものでした。
県が示している集約移転案について、方向性が出されるまでの経緯や、移転集約された場合の美術館の規模が縮小されることなどについての説明のあと、参加者からは意見や質問が次々と出されました。
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行政職だったという男性は「自治体が基本構想を策定したあとに、大きな変更を計画することは考えられず、手続き上、大問題ではないか。国の地方債を使うにしても、建設費というのは膨らむことが多く、よほどシビアに考えないと建設費の負担が少なくて済むとはいえない。そもそも建物は歴史を大切にして、直しながら大事に使うべきものだ」と話しました。
「美術館の企画展のたびに『芸術文化観賞コース』という講座を実施し、バスをチャーターして、なかなか個人では行けない人を乗せて絵を見に出かけてきました。申し込みが1日でうまる人気講座です」と教えてくださったのは地元の公民館の館長さんです。「個人的に晩年の忠良さんを存じ上げていたので、移転した場合あの彫刻はどうなってしまうのか、それを考えると涙が出てくるほどです」と胸の内を明かしてくれました。
中学校の美術教師という方からは、「中学校の美術教室で美術館を訪れることも多く、生徒には庭だけでも楽しいよ、彫刻を見てごらんと話してます」という話が出ました。建物、収蔵品、庭が一体になって魅力をつくっていることを感じさせる発言でした。
若い人の姿もありました。「小さい頃から県美に連れて行ってもらっていた」と話す大学生は、いま美術専攻とのこと。美術館が美術好きの若い人を育ててきたといえるかもしれません。
「年に3回ほど、佐藤忠良記念館を訪ね、カフェでくつろぐのを楽しみにしている」という漆芸家の男性は「宮城県美は建物も中身もいい」と話し、帰り際に「文化がないと、こんな騒ぎが起きてしまうんだぞ」と、重たいひと言をもらし帰っていかれました。
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古川、加美、鳴子と、3カ所をまわり、説明や意見交換をさせていただきましたが、それぞれの地域の方たちの宮城県美術館への思いは想像以上のものでした。芸術文化を醸成し、県下の美術教育の拠点として機能し、建物と庭が一体になった魅力的な空間が広く親しまれている。約40年という時間の蓄積の中で、この美術館が県民の間にしっかりと根を下ろしてきたのを痛感します。多くの人と思いを共有できた講座となりました。
玉子屋 おかしときっさ たまごや(食べログページ)
山ふところの宿みやま
ゆのまちたびの好日館
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